『現代アートとは、何か』(読書感想)

この記事では『現代アートとは、何か』の紹介、読んだ感想をまとめています。

これまでも現代アートの展覧会に足を運ぶことはあったのですが、どう鑑賞していいか、作者の伝えたいことを把握するためにはどうすればいいのか等、現代アートについてもっと知りたいと思ったので、こちらの本を手に取りました。

 

読むのにそれなりの時間はかかるのですが、現代アートの鑑賞法から現代アートが抱える問題点まで、現代アートについては幅広く知ることのできる本となっています。

 

 

 

現代アートとは、何か』本の概要

◉[書籍紹介]
現代アートを司るのは、いったい誰なのか?
世界的企業のトップや王族などのスーパーコレクター、暗躍するギャラリスト、資本主義と微妙な距離を保つキュレーター、存在感を失いつつも反撃を試みる理論家、そして新たな世界秩序に挑むアーティストたち……。日本からはなかなか見えてこない、グローバル社会における現代アートの常識(ルール)=本当の姿(リアル)を描きつつ、なぜアートがこのような表現に至ったのか、そしてこれからのアートがどのように変貌してゆくのかを、本書は問う。
さらに、これら現代アートの「動機」をチャート化した「現代アート採点法」によって、「難解」と思われがちなアート作品が目からウロコにわかりはじめるだろう。
アートジャーナリズムの第一人者による、まったく新しい現代アート入門。

◉[推薦]浅田彰
多文化主義が多様な価値を生み出す一方、それらを通約するものといえばグローバルなアート・マーケットにおける価格しかない——そんな現状を打破するために必要なのは、批評の再生だ。
ただの情報コラムではない。勉強の成果をひけらかすための小難しい論文でもない。アートの理論や歴史から経済や社会の現実までを横断する真の意味でジャーナリスティックな批評。
現代アートとは何か』は、そういうジャーナリスティックな批評のベースとなる最良のガイドブックである。

◉[本文より]
本書では、現代アートの価値と価格を決めている人々、つまり狭義のアートワールドの構成メンバーを紹介し、併せて「現代アートとは何か」を考えてゆく。輪郭の曖昧なその集合体が現代アートの価値を決めている。それが正当なことなのか、彼らにその権利があるかどうかは読み進めるうちにわかっていただけると思う。そのときには、「現代アートの価値とは何か」という大仰な問いの答も、自ずと明らかになっているはずだ。

◉[目次]
序章 ヴェネツィアビエンナーレ——水の都に集まる紳士と淑女
I マーケット——獰猛な巨竜の戦場
II ミュージアム——アートの殿堂の内憂外患
III クリティック——批評と理論の危機
IV キュレーター——歴史と同時代のバランス
V アーティスト——アート史の参照は必要か?
VI オーディエンス——能動的な解釈者とは?
VII 現代アートの動機
VIII 現代アート採点法
IX 絵画と写真の危機
終章 現代アートの現状と未来

(引用:Amazon.co.jp

現代アートとは、何か』は、全419ページ。ページの分量も多く、読みごたえのある内容だったので読むのに2週間かかりました。

 

現代アートとは、何か』勉強になったこと

本の内容は終章に簡単にまとめらています。

こちらでは、そちらの終章の内容をさらに簡単にまとめていきたいと思います。

 

アートワールドの現状

アートワールドは矛盾に満ちている

アーティスト、キュレーター、批評家、ジャーナリストなどの多くはグローバル資本主義を批判しているが、日々の糧をそこから得ている者が少なくない。

アートマーケットは加熱する一方である

スーパーコレクター同士の争いは激化していて、希少な作品の奪い合いは価格の高騰をもたらす。

美術館とアーティストは様々な圧力に曝されている

表面的には表現の自由を認めている国でも、助成金など経済的支援の停止を仄めかすなど、水面下での圧力が存在する。

作品の特権的な私有化や囲い込みが進んでいる

富裕なコレクターや財閥・企業が開いた私立美術館が、公的助成金を受けながら実質的に一般公開されていないことが問題視されている。

公共財である芸術作品を私物化しようとする一握りの人々によって、文化遺産が広く共有されず、アートシーンが沈滞化していくことが懸念されている。

巨大美術館はポピュリズムに陥り始めている

テート・モダンが展示面積の拡大を機に「他社と過ごす社会的・社交的な場」を目指すという方針を明らかにしたように、巨大美術館はテーマパーク化しつつある。

批評や理論は影響力を失っている

『アートフォーラム』などの専門誌は広告で占められ、業界人でさえ批評を読まなくなっている。

 

今日のアートとアーティスト

アートの潮流は1989年を境に変わった

冷戦構造が崩壊した1989年に、ポストコロニアリズムとマルチカルチュラリズムが導入され、これを機に非西洋のアートも注目されるようになった。

今日のアーティストは、かつてとは大きく異なる

『世界標準』のアートは、アート史への言及や、先行作品の引用がなければならないとされている。

一方、現代では政治的・社会的なメッセージを作品に込める作家が増えており、メッセージ性が強い作品において、言及や引用が本当に必要なのか検証する必要がある。

今日のアートは選択・判断・命名による知的活動となった

現代アーティストが行うのは、選択し、命名し、新たな価値を与えることであり、鑑賞者も同じことをする。

ただし、鑑賞者は「能動的な解釈者」にならねばならず、鑑賞者が解釈することによって作品は初めて完成される。

今日のアートはすべからくコンセプチュアル・アートであるべき

「選択・命名・新たな価値の付与」によって成立する現代アートにとって、最も重要なのは観念あるいは概念であり、本質は外見にはない。

インパクト・コンセプト・レイヤーが現代アートの3大要素

インパクトは「かつてなかったような視覚・感覚的な衝撃」。コンセプトは「作家が訴えかけたい主張や思想、知的なメッセージ」。レイヤーは「鑑賞者に様々なことを想像、想起、連想させる重層的に作品に組み込まれた感覚的・知的要素」。

良いアート作品はこの3要素によって鑑賞者の想像力を刺激する。

現代アートの作家が抱く創作の動機は、大別して7種ある

「新しい視覚・感覚の追求」「メディウムと知覚の探求」「制度への言及と意義」「アクチュアリティと政治」「思想・哲学・科学・世界認識」「私と世界・記憶・歴史・共同体」「エロス・タナトス・聖性」がその7つ。

作品の鑑賞とはレイヤーの読み解きによる動機の推理であり、動機の度合いと達成度の数値化が作品読解の助けとなることがある。

今後のアートはインスタレーションを志向する

コンセプトが格段に優れている作品を除くと「眼差しそのものを形成」し、観客の五感に訴えるインスタレーションの時代が到来している。

 

終わりに

同じく終章に、以下の文章が書かれています。

アートが世界を変えたり、人間を救ったりすることはまずないだろう。だが、アートを通じて世界の問題に関心を抱くようになれば、歴史はほんの少しだけ動くかもしれない。同じく、アートを通じて人間とは何かという問題に思いを馳せるようになれば、我々の人生は少しだけ違って見えるかもしれない。その意味で、現代アートの鑑賞とアートについて考えることは、実は、「世界とは何か」「歴史とは何か」「我々とは何者か」という大きな問題と通底している。

現代アートは難解でよくわからないものと思われることもありますし、実際私もそのように思っていました。

しかしこの本を通じて、現代アートの読み解き方が何となくわかりましたし、現代アートを鑑賞することの意義も理解できました。

現代アートについて知りたいと思っている方はまずこの本を読むことをおすすめします。